機械系3DCADを試してみました。
今回テストしたのは以下3製品。(と、おまけ2つ)
いずれもヒストリーベースの機械系3DCADです。
かつ、無料あるいは超低価格で、素人が手を出せるローレンジ3DCADです。
ごく浅いところまでですが同じモデルを作ってみて概要を把握しました。
- Fusion 360
- Onshape
- SOLIDWORKS for Makers
1. 機械系3DCADってどういうもの?
ソリッド/サーフェース
まず、CGソフトと違ってポリゴンじゃないです。
BREPと呼ばれるNURBS面の集合体でオブジェクトを構成します。
閉じたジオメトリならソリッド、閉じられていなければサーフェースです。
フィーチャ
現在主流になっている機械系3DCADは、フィーチャ(Feature)と呼ばれるモデリング機能がスタックされて履歴に残り、それを後から編集することで簡単に設計変更に対応できるようになっています。
部品とアセンブリ
製品の全体モデルを作る時、"部品"をひとつずつ個別に作り、それらを組み合わせ、"アセンブリ"にまとめます。
部品を組み合わせるときは、合致(Mate)と呼ばれる機能により、その部品が正しく振る舞うように位置合わせできます。
部品はひとつずつそれぞれ個別の扱いになります。ファイルだったり、クラウド上のドキュメントだったりします。
その他
設計ソフトならではの機能を備えています。(標準装備でない場合でもアドインなどの形で提供されます。)
・3Dモデルとリンクした2D図面化・製図機能
・解析・シミュレーション(CAE)
・ビジュアライゼーション(レンダリング/アニメーション)
・加工支援(CAM)
・PDM(プロジェクトデータマネジメント)
2. 機械系3DCADのモデリング作法
CG系の3Dソフトとちょっと違う手法が主流です。
CG系だとCubeとかSphereからモデリングを始めることも多いと思うんですけど、機械系CADは基本的に 2D to 3D。
- スケッチしてソリッド/サーフェースを作る
- スケッチしてボディを加工する
という感じで、"スケッチ"ありきでモデリングを進めます。
スケッチと拘束
ここで言うスケッチ(Sketch)とは、押し出しとか回転体用の2D図を描くことです。
この2D図を描く際に様々な"拘束"をつけながら作図していきます。
寸法拘束や幾何拘束で設計意図に沿うように図形を縛りながら作るのが基本です。
ただし、拘束やフィーチャの依存関係を理解していないとすぐに行き詰まります。
一つ修正すると、依存関係にある複数のフィーチャでエラーが出まくります...。
フィーチャーツリー(上図)のおかげで後から編集しやすいのですが、複雑なモデルを修正しようとしてエラーが出たときはげんなりするでしょう...。
行き当たりばったりのモデリングは後で困ることになるので、ある程度計画的にモデリングをすすめるべきです。
デッドエンド
ちょっと複雑な形状を作ろうとすると、割と簡単にモデリングに行詰まるシーンに出くわします...。
・フィレットがかからない
・シェルがかからない
・抜き勾配(ドラフトアングル)を設定できない
・etc...
そもそもモノづくり用の設計ソフトなので"現実的でない形状"、"拘束の関係上作れない"など、無理なモデリングをしようとするとエラーになります。
ポリゴンモデリングなら、多少、面が潰れようが裏返っていようが生成できてしまいますけどね...。
こうしたデッドエンドを回避するためには、履歴を戻って拘束を見直し、モデリング手法や手順を変えたりする必要があります。
それでも回避できないなら、モデリングカーネルの機能的な限界か、そもそも作れない形なのかもしれません。
とりあえずでいいから、どうしてもその先へモデリングを進める必要があるなら、サーフェースの切り貼りで対処することもできます。
3. 製品の評価
01. Fusion 360
開発元:Autodesk(Inventorと一緒)
- 何でも入っている。レンダリングやCAMまで!
- サブディビジョンサーフェスモデリングも!
- ただし、シミュレーション(CAE)は有料
- 今流行りのジェネレーティブデザインも有料
- 欲ばりな初心者におすすめ
- 操作感は比較的わかりやすくやさしい
- WEB上に情報が多く勉強しやすい
- クラウドベースだがローカルにアプリケーションをインストールする必要がある
- ファイルはクラウドへ保存される
価格:ホビーユースなら無料だが、保存できるファイル数に制限あり。10点まで。
UI/UX
Autodeskのアプリケーションだからか、CGソフトっぽいUI。
使い勝手もちょっとCGソフトっぽい。
モデリング機能
余計なお世話仕様で「そうじゃない!」ってなることが結構あるのですが、簡単で便利な機能も多いので初心者にはよいと思います。
スケッチの拘束はやや面倒。たとえば投影ビューのボディ(オブジェクト)の外形ライン(シルエットライン)に直接スナップできないなど。(SOLIDWORKSならできるのに...。)
アセンブリ
画面にマーカーがたくさん出て支援してくれ、簡単に合致(Mating)できます。
他の2つに比べて設定できるMateの種類が少ないように見えるけど、
工夫次第で大抵のことはできそう。でも初心者にはそれが難しい...。
たとえば並行合致が簡単にできないなど...。
CAM
無料版でも加工パスの生成・切削シミュレーションができます。ただし、NCプログラムの書き出しは無料版では"一度に1工具分しか書き出せない"制限付きです。
クラウドプラットフォームシンプルで使いやすい。モデルの表示もきれいでチームでデザイン検討する場合などには良さそうです。
無料版でも加工パスの生成・切削シミュレーションができます。ただし、NCプログラムの書き出しは無料版では"一度に1工具分しか書き出せない"制限付きです。
クラウドプラットフォームシンプルで使いやすい。モデルの表示もきれいでチームでデザイン検討する場合などには良さそうです。
02. Onshape
開発元:PTC(Creo Parametricと一緒 ※Creo Parametricは昔のPro/ENGINEER)
- シンプルで覚えやすい。
- わかりやすく整理されたワークフロー
- フルクラウドでインストール不要
- WEBブラウザで動作する
- 軽い操作感
- はじめて機械系3DCADに触れる人におすすめ
価格:無料プランは保存データがPublicに公開される
自分的にはOnshape気に入りました。地味なUIだけど全体に洗練された印象で、ブラウザ越しにサクサク動く操作感など、使っていて気持ちいい。さすがPTC。
モデリング機能
標準的な機能は全て揃っているし、ローエンドでは十分と思われます。
ただし、慣れたらすぐにSOLIDWORKSみたいな、より高度で便利なCADが欲しくなるはず...。
スケッチの拘束がやや面倒で、投影ビューのボディの外形ラインに直接スナップできない。
SOLIDWORKSではこれが簡単にできるのでついつい比較してしまう...。
アセンブリ
シンプルだがFusion 360より広くカバーされているので捗ります。
クラウドプラットフォーム
無料版ではほとんどの機能が使えない。でもクールなUIが好印象。
"製品開発プラットフォーム"を謳っているので、本来、ただのモデラーじゃない使い方をすべきものですね。
無料版でも設計上の分岐を辿れたりします。
03. 3DEXPERIENCE SOLIDWORKS for Makers
開発元:ダッソー(CATIAと一緒)
- 本来ミッドレンジの3DCADなので当然、最上位の実力
- 通常版のSOLIDWORKSとほぼ同じモデリング機能
- さすがのモデリングアビリティ
- 慣れるとモデリング早い
- UIをカスタマイズしやすい
- 普及しているのでチュートリアル的なものを探しやすい
- ローカルにインストールするアプリケーションだが、クラウドに繋がないと起動しない
価格:9ドル/月、99ドル/年
UI/UX
最初は覚えにくいです。UIがごちゃごちゃしていて煩雑で整理されていない印象。
SOLIDWORKSは割と自由にモデリングを進められるのですが、それが逆に初心者には混乱を招くと思われます。覚えてしまえば早いんですけどね...。
ビューのOrbit機能が使いにくい。どうしても思ったような回転状態に一発で回せない。(Fusion360ならできるのに。)
高性能
他の2つのアプリで思ったような形状にならないシチュエーションでも、ちゃんとモデリングできる。さすがのParasolid!
・スケッチの拘束が簡単で早い!(これに慣れてしまうと他のソフトがショボショボに見える...。)
・カット(ブーリアン差)が独立した別コマンドになっている。(最初は戸惑うが慣れの問題。)
・オープンカーブによるカットなど便利な機能も通常版同様に使える。
・上の2つに比べてより実務向きの機能を備えている。
アセンブリ
通常版と同様、高機能で簡単!
いろんな拘束をつけてMating(合致)できます。ただし、物理シミュレーションじゃないので、シチュエーションによっては思ったように動かない場合もあります。
クラウドプラットフォーム
ダッソーのクラウドプラットフォーム(3DEXPERIENCE Platform)は非常に多機能だけど、ちょっと重くて使いづらい。それに多機能すぎてよくわからない...。
クラウドCAD
xDesignはSOLIDモデラーです。
UI/UXはSOLIDWORKSには似ていません。正直、レスポンス悪いけど、それを我慢すれば一通りのモデリングができます。
4. 総評
当然ながら、建築系CADソフトより高度かつ、精度のよいモデリングが簡単にできます。
曲面の設計に
3次元の曲面のデザインに使えます。何より、履歴があるので曲面であっても後から形状をコントロールしやすいです。Rhinocerosだと難しいことが簡単にできます。
モデリングが進んだ後でも最初のサーフェースを修正して、それ以降の履歴を反映し直せます。
CAM/3Dプリンティング
設計データを元に加工機械用のGコードを出すことが出来ます。
金物屋さんなんかは似たような専用CADを使っているはずですが、今回の3DCADにもNC旋盤やマシニングセンタ用、板金用のアドオンがあります。
たとえば、"鋳物のドアハンドル" みたいなものを特注でデザインしたいなら、モデルデータから3Dプリンティングしたり、金型切削用のデータづくりに活かせます。
建築CG/商業CG
CG分野では、モデラーとしてはちょっとオーバースペックだし、CG系で使うポリゴンと相性悪いです。ただ、最近はQuad Remesherが使えるソフトが増えて、変換後のポリゴンの整理も比較的簡単になったので、CADモデルからCGモデルへの変換など、うまく使えば役に立つはずです。
また、機械系の3DCADは、モデルを作った時点でパラメトリックなので、サイズ違いのオブジェクトを大量に作るなど、特殊な用途にも使えると思います。
でも、こんな高機能な無料版、廉価版が存在するなんて良い時代になりましたね。
"モデラーオタク"としては楽しい時代になりました。
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